光の粒子は散ることなく、歌を奏でていた。 消えそうに瞬き、風に揺れ、わずかながら右へ左へ行ったり来たり。 てっきり、幽霊でもいるのかと思っていただけに、拍子抜けである。 「違った……?」 光は弥生の問いかけに答えるわけもなく、繰り返し歌う。 誰も知らないメロディが、響いていた。 せっかくお弁当を持ってきたのだ、今日はここですまそうと、弥生は広げはじめた。 嫌いではないし、むしろどこか懐かしい気もする。 ずっと聞き続けていたからか、所々あわせて歌えるようになっていた。 「春に行方……たし、………………の桜。……揺れる曼珠沙華と、…………君の人。 眺める神はとても強く、君………脅かし、…の心…………た。……める鳥の群に、……一つの言の葉よ。 茜空………、されど…………はあかく、曼珠沙華に…………。 故に君は言っている、………………。彼……………せて」 恋歌、それも悲しい物だろうと弥生は思っていた。 幽霊でもない光が音を発しているのは少し不可思議である。 もしかすると、幽霊だったものがこんな形になったのかもしれない。 「ゆめゆめ…………つつ、いつか…………空…、掴む……瞳と。 君と僕は…………。想う心は…………、彼は…………を選んだ。 泣かないで、…………。いつか…………えるから。魂の底で、……………………いて」 + + + 「そうして君は気づかない、桜は散った空の果て。翼は朽ちてもう飛べぬ……」 十六夜を保健室に預け、無月と初音は再び中庭に戻っていた。 かすかに聞こえた歌声に、突如無月はあわせて歌い始めたのである。 「やがてまた咲く曼珠沙華。しゃらり、しゃらりと……」 声に、鈴の音が重なった。 しゃらん、しゃらんといくつもの鈴が連なって鳴っている。 穏やかな波動が、時計塔を中心にゆっくりと学園を包んでいった。 「始まった、と言うより始めさせた、だな。行かなくて良いのか?」 「紅葉ちゃんと薫君が何かを感じたみたいだから、行けない。今、三人の前に私が行けば、思い出しちゃうだろうから」 「それは……否定できぬな。では、私が見てこよう、どうせこのままでは午後の授業は始まるまい」 間髪入れず、無月は頷いた。 先ほどの波動が、学園の全てに眠りを誘った。だからこそ、午後の授業は始まらない。 起きているとすれば、弥生と紅葉、薫あたりくらいだろう。 「お願いね、初音ちゃん」 ここは任せることに決めた。 + + + 鈴は軽やかに鳴り続けていた。 昔、祖母と見た何かの舞台のようだ、と弥生は思う。 音は全てを表していて、連なって響くのは何かを求めているのだ、と祖母は言っていた。 やはり、この光は何かを自分に求めているのだろうか? 「まだここにいたいの? 空に、帰りたいの?」 「それは違うっスよ、弥生」 鈴の音を辿り、時計塔まで来てみれば、今まで気づかなかったこの部屋を見つけた。 そして、その中に探していた人物がいた。 息を切らせた紅葉が、入り口の扉の前に立っていた。 「鈴はきっと、貴殿を求めているのだと思います」 少し遅れて、紅葉の後ろに薫が現れる。 左頬の痣が浮かび上がっているところを見ると、『風』を使ったらしい。 弥生との面識はなかったが、この場の雰囲気はとても懐かしかった。 「幽霊じゃない? それじゃぁ……」 鈴を奏でる光の粒子が揺らぐ。 触れたくともすり抜けてしまう、この相手が幽霊でないとすれば、何だ? 「違うっス。それは……」 「おそらくは……」 二人の言葉を合図にしてか、鈴の音がハタとやんだ。 静寂が喜んで広がってゆく。 その波は……弥生の手前で消え去った。 祖母から託された、守りの鈴が誰の力を借りたわけでもなく震えた。 リン、と清らかな音が響き渡る。 『それが望む明日かは分からぬ。ならば、共に探そうぞ』 ――――希望の光と、我が鈴の音と共に その御名 参ノ月 弥生 歌う光球はゆっくりと、右頬に触れた。 明るい桃の花びらを持つ、赤い小さな花の紋が、そこに浮かび上がったのだった。 鈴は鳴る 未来を目指し
知らぬが故に 光だけを見て 思い出すな 過去の闇を 誰もがそう願っていた back top next ※注釈 歌の全部の歌詞。(音はご自分でご想像ください♪) 一応イメージとしては、前世に関連。弥生がというよりも、その姉妹の方かな。 春に行方尋ねたし、白染め赤染め桃の桜。 彼岸に揺れる曼珠沙華と、去ってしまった君の人。 眺める神はとても強く、君の心を脅かし、彼の心を消し去った。 翼休める鳥の群に、託す一つの言の葉よ。 茜空は秋の空、されどその日の空はあかく、曼珠沙華によく似ている。 故に君は言っている、どうかお願い。彼を今でも思わせて。 ゆめゆめ翼を隠しつつ、いつかはばたくその空を、掴む心と瞳と。 君と僕は同じで違う。想う心は近いのに、彼は確かに君を選んだ。 泣かないで、ナカナイデ。いつかきっと会えるから。 魂の底で、いつまでも彼を想っていて。 そうして君は気づかない、桜は散った空の果て。翼は朽ちてもう飛べぬ。 やがてまた咲く曼珠沙華。しゃらり、しゃらりと踊る君は、彼を想いここにいる。 時は何も与えない、僕はそれを知っている。 |
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