刻ノ宮の歴史は、この国が落ち着いた頃からと言われている。 不思議な力を持つ巫女のお告げを信じ、力ある者が長として君臨していた。 時を同じくして、生まれながら特殊な力を持つ一族がいた。 自らを神の子とし、彼らは神乃の一族と言われていた。 刻ノ宮と神乃が互いの力を認めることはなく、双方は関わり合いを持とうとはしなかった。 刻ノ宮には月人という者が存在していた。 体のどこかに痣を持って生まれ、不思議な力を持ち、選ばれた名を与えられた。 しかし、刻ノ宮で全ての月人がそろったのは、滅びの年となったその時だけであった。 「それが、巫女の作り上げた偽りの月人の話。過去、生まれた月人達は数人とされていたけど、本当は必ず全員存在していた」 だが、巫女は自らの力でそれを隠していた。 月人が生まれると、その場に立ち会った者全てが巫女の元へ呼ばれる。 そして、巫女の判断の元、その子を月人とするか、普通の子とするかを定めるのである。 普通の子とすることを決められた場合、痣も力も月人ということも忘れさせるのだ。 巫女だけが使う、忘却の力はその時に使用されていた。 巫女の言動は絶対だ。 そんな中で、ある時から「月人がそろえば刻ノ宮が滅びる」と言い始めた。 「その代の巫女は、刻ノ宮が滅びることはないと信じてそう言った。それがあり得ないことだから」 無月は目を閉じた。 この先は巫女しか知らない、霜月にさえ話していないことだった。 「本当の月人の力は三種に分けられる。自然系の力と、その一族が持つ力を強化する力、そして新たな力」 自然系の力は『風』・『大地』・『水』・『火』の四種。 一族の持つ力を強化されたのは、『剣』・『弓』・『除霊』・『盾』の戦いを専門とする子。 そして、弥生・水無月・長月・霜月に限り、生まれる月人の子によって能力が違っていた。 新たな力を保有する子は、どこに生まれるかが分からない。 だが、自然系の力と強化される力は、かならず同じ一族に引き継がれていた。 そう、つまりは…… 「自然系の力と一族の力を強化される子は血で生まれる。一族が途絶えてしまっては、もう続かない」 自分が見たわけではない、ただ知っているだけの記憶。 この先を話すことは、どの巫女もなかっただろう。 「神翼(しんよく)の一族は……師走の血を持った一族は、その代の巫女が生きている頃に滅びてしまった。 だから、これ以後、絶対に月人がそろわないことを知っていたの」 滅んだ理由は、すでに定かではない。 だが、翼の痣を持ち『火』を操った最後の子は、悲しみの死を遂げたと記憶している。 それからどれだけの月日が流れたかは分からないが、無月は刻ノ宮に生を受けた。 生まれながら巫女の資格を持つ、先代はその旨を伝えると息途絶えたという。 巫女の引き継ぎが幼子にされてしまい、それから数年……無月が自らの力をコントロールできるまでに、月人は増えていった。 本来ならば生まれた数人の月人の子に行われる忘却ができず、普通の子として育むことが出来なかったのである。 この時の長は、無月の父親だった。 彼は月人を押さえるために、力を欲し、次の長は力ある者を求めていた。 たとえ、それが神乃の者であろうとも。 「有月ちゃんを見つけたのはすぐだった。時折自分の力を押さえられなかった私は、そのことを隠すことが出来なかった」 忘却以外にも力を持っていた巫女が、刻ノ宮を動かしてきたはずだった。 しかし、父を娘が押さえられるはずもなく、無謀な提案は可決された。 神乃に生まれし、膨大な力を持った少女。 それを捕らえて、刻ノ宮の新たな長とする、と。 「私があの時父上を押さえきれれば、力の制御が出来てさえいれば……」 ごめんなさい、と小さく告げた。 転がり始めた石は、止まらない。 長の指示の元、有月から記憶と本当の名を奪い、全てを教えて長として据えた。 いくどか刻が巡れば、神乃に返そうと思ったが、その刻を迎えることなく終焉は訪れた。 刻ノ宮の重要人物でさえ忘れていた鍵を使い、外からの来訪者があった。 師走の名を持つ者が、現れたのである。 月人が集まれば刻ノ宮が崩壊するという、巫女の予言は忘れ去られていた。 「有月ちゃんは、月人の真実を知らない。だから、傷を痣と見なし、名を持った彼を最後の月人だと宣言した。 そして、全ての月人に自らの力を与えた」 その時代、力を持って生まれてくる月人は、稀な存在となっていた。 だから、彼女は自らの力を分け与えたのである。 何も起きなければいいと願っても、叶わなかった。 「あとは、貴方が現れて、順番に月人は散り……有月ちゃんは貴方が居なくなった後、転生の法を使った。 だから、私はここにいる。全ての罪を背負ったまま」 ぎゅっと無月は手を握りしめた。 父親の罪、刻ノ宮をそう導いてしまった罪、いくら謝罪の言葉を述べても足りない。 彼に裁かれても、あらがう権利などない。 黙って聞いていた日次は、ただ一度だけ、ふぅんと感心したように声を上げた。 「ここから先が、私の提案……」 続けられた言葉に、驚く者はいなかった。 + + + 【姉を捜しに参ります】 そう告げると、長達はこぞって反対した。 これ以上神乃から、力ある者を失うわけにはいかないと。 しかし、彼だけは後押しをしてくれた。 【師走、良いことを教えてあげるよ。刻ノ宮は、外から入ることはムズカシイ。けど、外に追放された住人が、鍵を持っているらしい】 姉に次ぐ力を保持した、博識な人。 誰もが敬意を示し、師走の姉が姿を消したため、もっとも心に傷を負った人。 十年という月日は、彼を癒した……そう誰もが思っていた。 【やはり君に頼んで良かった……こんなにも簡単に見つけてくれるとは】 刻ノ宮が火に包まれると、手を血で染めたその人は颯爽と現れた。 ゆがんだ笑みは今まで一度も見たことのないものだった。 そして、彼と神乃との鎖は、とぎれていた。 【日次……さん? どうして、ここにっ?! いや、どうして、神乃との鎖がっ】 【ああ、君には見えるんだっけ。全ての人の、因果の鎖が。だから、鍵のことを教えてあげたんだけど】 【見えますよ。だからこそ、聞いている】 意外なことに、自分は冷静だった。 答えを知っていて、それでも聞いているような気分だからだろうか。 【俺はまだしも、どうして貴方の神乃との鎖がとぎれているのか】 師走の力も神乃では珍しいものだった。 人の運命、人と人の繋がり、人と物の繋がり、そんな物の全てを、鎖として視覚で捉える力。 また、その鎖を操る力。 刻ノ宮を求めた時も、その力を頼りに旅をしてきたのである。 【あははっ。そんなに怖い顔しないでよ。だって神乃は……】 炎が彼の周りで、生き物のように蠢いていた。 【彼女を諦めろと言う輩も、何もかも消した。要らないモノだからね】 彼の鎖は途切れたのではない。 日次自身が引きちぎったモノだった。 何もかもいらない。欲しいのは唯一つ。 彼女の心だけ。 【そこまでして、貴方は姉上を取り返したいのかっ!】 + + + 起きあがったその場所は、葉月の部屋だった。 「……夢?」 呟いてみたモノの、その内容はすでに消えかけていた。 印象に残ったものは『神乃』と『鎖』そして『姉上』。 「なんなんだよ……一体」 ぐしゃりと前髪をかいた師走に、答える者はいなかった。 back top next 話ごちゃごちゃになってないかなぁと、ちょっと不安。 要は、月人の力は8つだけ決められた物。 そこだけは何があってもその通りでしかなく、同じ血筋の子しか受け継がない。 本当の師走は、そういう一族に生まれた子で、滅びちゃったわけですよ。 でも、巫女の予言ははずれることがなく、強引にも神乃だった師走を月人として迎えたことで、刻ノ宮は滅びちゃったというわけです。 あとは、師走くんの能力判明。 『鎖』の力。ちなみに、実体のある鎖を操ることもできます。 多分、人の死期も見えたりしたんだろうなぁ…。 実は、20話にて流雨ちゃんが歌ってた歌詞が、神乃師走を含む、崩壊時の月人全ての力をばらしてたんですけどね。 「風の移りな 水の去り際 剣と盾とが入り乱れ 始まりの鈴が鳴り響く 飛ぶのは破魔の矢 捕らえる鎖 大地は裂けて 言葉は消える 兎はやがて月に上り 力を持って封印す」 順に、風・水・剣・盾・鈴・弓・鎖・大地・言霊・月卯・念力・除霊という具合に。 17話の時点では、師走以外をばらしてましたが。 さて、どうなっていくのか? |
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