第参拾弐話 『語られるは、巫女の昔話』

 刻ノ宮の歴史は、この国が落ち着いた頃からと言われている。

 不思議な力を持つ巫女のお告げを信じ、力ある者が長として君臨していた。



 時を同じくして、生まれながら特殊な力を持つ一族がいた。

 自らを神の子とし、彼らは神乃の一族と言われていた。



 刻ノ宮と神乃が互いの力を認めることはなく、双方は関わり合いを持とうとはしなかった。



 刻ノ宮には月人という者が存在していた。

 体のどこかに痣を持って生まれ、不思議な力を持ち、選ばれた名を与えられた。

 しかし、刻ノ宮で全ての月人がそろったのは、滅びの年となったその時だけであった。



「それが、巫女の作り上げた偽りの月人の話。過去、生まれた月人達は数人とされていたけど、本当は必ず全員存在していた」



 だが、巫女は自らの力でそれを隠していた。

 月人が生まれると、その場に立ち会った者全てが巫女の元へ呼ばれる。

 そして、巫女の判断の元、その子を月人とするか、普通の子とするかを定めるのである。

 普通の子とすることを決められた場合、痣も力も月人ということも忘れさせるのだ。

 巫女だけが使う、忘却の力はその時に使用されていた。



 巫女の言動は絶対だ。

 そんな中で、ある時から「月人がそろえば刻ノ宮が滅びる」と言い始めた。



「その代の巫女は、刻ノ宮が滅びることはないと信じてそう言った。それがあり得ないことだから」



 無月は目を閉じた。

 この先は巫女しか知らない、霜月にさえ話していないことだった。



「本当の月人の力は三種に分けられる。自然系の力と、その一族が持つ力を強化する力、そして新たな力」



 自然系の力は『風』・『大地』・『水』・『火』の四種。

 一族の持つ力を強化されたのは、『剣』・『弓』・『除霊』・『盾』の戦いを専門とする子。

 そして、弥生・水無月・長月・霜月に限り、生まれる月人の子によって能力が違っていた。

 新たな力を保有する子は、どこに生まれるかが分からない。

 だが、自然系の力と強化される力は、かならず同じ一族に引き継がれていた。

 そう、つまりは……



「自然系の力と一族の力を強化される子は血で生まれる。一族が途絶えてしまっては、もう続かない」



 自分が見たわけではない、ただ知っているだけの記憶。

 この先を話すことは、どの巫女もなかっただろう。



「神翼(しんよく)の一族は……師走の血を持った一族は、その代の巫女が生きている頃に滅びてしまった。
 だから、これ以後、絶対に月人がそろわないことを知っていたの」



 滅んだ理由は、すでに定かではない。

 だが、翼の痣を持ち『火』を操った最後の子は、悲しみの死を遂げたと記憶している。







 それからどれだけの月日が流れたかは分からないが、無月は刻ノ宮に生を受けた。

 生まれながら巫女の資格を持つ、先代はその旨を伝えると息途絶えたという。

 巫女の引き継ぎが幼子にされてしまい、それから数年……無月が自らの力をコントロールできるまでに、月人は増えていった。

 本来ならば生まれた数人の月人の子に行われる忘却ができず、普通の子として育むことが出来なかったのである。

 この時の長は、無月の父親だった。

 彼は月人を押さえるために、力を欲し、次の長は力ある者を求めていた。

 たとえ、それが神乃の者であろうとも。



「有月ちゃんを見つけたのはすぐだった。時折自分の力を押さえられなかった私は、そのことを隠すことが出来なかった」



 忘却以外にも力を持っていた巫女が、刻ノ宮を動かしてきたはずだった。

 しかし、父を娘が押さえられるはずもなく、無謀な提案は可決された。

 神乃に生まれし、膨大な力を持った少女。

 それを捕らえて、刻ノ宮の新たな長とする、と。



「私があの時父上を押さえきれれば、力の制御が出来てさえいれば……」



 ごめんなさい、と小さく告げた。

 転がり始めた石は、止まらない。

 長の指示の元、有月から記憶と本当の名を奪い、全てを教えて長として据えた。

 いくどか刻が巡れば、神乃に返そうと思ったが、その刻を迎えることなく終焉は訪れた。



 刻ノ宮の重要人物でさえ忘れていた鍵を使い、外からの来訪者があった。

 師走の名を持つ者が、現れたのである。

 月人が集まれば刻ノ宮が崩壊するという、巫女の予言は忘れ去られていた。



「有月ちゃんは、月人の真実を知らない。だから、傷を痣と見なし、名を持った彼を最後の月人だと宣言した。
 そして、全ての月人に自らの力を与えた」



 その時代、力を持って生まれてくる月人は、稀な存在となっていた。

 だから、彼女は自らの力を分け与えたのである。

 何も起きなければいいと願っても、叶わなかった。



「あとは、貴方が現れて、順番に月人は散り……有月ちゃんは貴方が居なくなった後、転生の法を使った。
 だから、私はここにいる。全ての罪を背負ったまま」



 ぎゅっと無月は手を握りしめた。

 父親の罪、刻ノ宮をそう導いてしまった罪、いくら謝罪の言葉を述べても足りない。

 彼に裁かれても、あらがう権利などない。

 黙って聞いていた日次は、ただ一度だけ、ふぅんと感心したように声を上げた。

「ここから先が、私の提案……」

 続けられた言葉に、驚く者はいなかった。









 + + +









【姉を捜しに参ります】

 そう告げると、長達はこぞって反対した。

 これ以上神乃から、力ある者を失うわけにはいかないと。

 しかし、彼だけは後押しをしてくれた。

【師走、良いことを教えてあげるよ。刻ノ宮は、外から入ることはムズカシイ。けど、外に追放された住人が、鍵を持っているらしい】

 姉に次ぐ力を保持した、博識な人。

 誰もが敬意を示し、師走の姉が姿を消したため、もっとも心に傷を負った人。

 十年という月日は、彼を癒した……そう誰もが思っていた。







【やはり君に頼んで良かった……こんなにも簡単に見つけてくれるとは】

 刻ノ宮が火に包まれると、手を血で染めたその人は颯爽と現れた。

 ゆがんだ笑みは今まで一度も見たことのないものだった。

 そして、彼と神乃との鎖は、とぎれていた。

【日次……さん? どうして、ここにっ?! いや、どうして、神乃との鎖がっ】

【ああ、君には見えるんだっけ。全ての人の、因果の鎖が。だから、鍵のことを教えてあげたんだけど】

【見えますよ。だからこそ、聞いている】

 意外なことに、自分は冷静だった。

 答えを知っていて、それでも聞いているような気分だからだろうか。

【俺はまだしも、どうして貴方の神乃との鎖がとぎれているのか】

 師走の力も神乃では珍しいものだった。

 人の運命、人と人の繋がり、人と物の繋がり、そんな物の全てを、鎖として視覚で捉える力。

 また、その鎖を操る力。

 刻ノ宮を求めた時も、その力を頼りに旅をしてきたのである。

【あははっ。そんなに怖い顔しないでよ。だって神乃は……】

 炎が彼の周りで、生き物のように蠢いていた。

【彼女を諦めろと言う輩も、何もかも消した。要らないモノだからね】

 彼の鎖は途切れたのではない。

 日次自身が引きちぎったモノだった。

 何もかもいらない。欲しいのは唯一つ。

 彼女の心だけ。

【そこまでして、貴方は姉上を取り返したいのかっ!】









 + + +









 起きあがったその場所は、葉月の部屋だった。

「……夢?」

 呟いてみたモノの、その内容はすでに消えかけていた。

 印象に残ったものは『神乃』と『鎖』そして『姉上』。

「なんなんだよ……一体」

 ぐしゃりと前髪をかいた師走に、答える者はいなかった。


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話ごちゃごちゃになってないかなぁと、ちょっと不安。
要は、月人の力は8つだけ決められた物。
そこだけは何があってもその通りでしかなく、同じ血筋の子しか受け継がない。
本当の師走は、そういう一族に生まれた子で、滅びちゃったわけですよ。
でも、巫女の予言ははずれることがなく、強引にも神乃だった師走を月人として迎えたことで、刻ノ宮は滅びちゃったというわけです。

あとは、師走くんの能力判明。
『鎖』の力。ちなみに、実体のある鎖を操ることもできます。
多分、人の死期も見えたりしたんだろうなぁ…。
実は、20話にて流雨ちゃんが歌ってた歌詞が、神乃師走を含む、崩壊時の月人全ての力をばらしてたんですけどね。
「風の移りな 水の去り際 剣と盾とが入り乱れ 始まりの鈴が鳴り響く 飛ぶのは破魔の矢 捕らえる鎖 大地は裂けて 言葉は消える 兎はやがて月に上り 力を持って封印す」
順に、風・水・剣・盾・鈴・弓・鎖・大地・言霊・月卯・念力・除霊という具合に。
17話の時点では、師走以外をばらしてましたが。
さて、どうなっていくのか?

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