第陸話 『雪幻の白神』

 四人が弓道場に駆けつけると、部長 蕪木釉豼がうつぶせに倒れていた。

 そして、横に白いモヤを纏う弓が一つ。

 先は床についておらず、丁度誰かが持っているような位置にある。

「「釉豼(ちゃん)!」」 「部長殿!」

 面識のある3人は駆け寄ろうとしたが、見えない壁に阻まれ近くに寄ることが出来ない。

「結界か……月人の力で増幅している所為でもあるな」

 睦月は忌々しげに唇を噛み、弓と白いモヤを睨みつける。

「一体何がしたい。その様子では、もっと人の形をとれるであろう」

 白いモヤはその言葉に反応し揺らめくと、人形を取った。

 睦月の側にいた薫が、短刀を構える。

"別に……何も"

 消えそうな声が、四人の耳に届いた。

 声質はまるで、幼い少年のようだが、そこにある白影は長身で雪影と同じくらいである。

「それならこの結界をといて! 釉豼ちゃんがっ……」

"それは……やだ"

「なんで!」

"解いたら……邪魔する"

「っ……」

 見えない壁を無月は悔しそうに叩いた。

 その後ろで3人は作戦を立て終えようとしていた。

「でも睦月。僕は矢がないと……」

「いや、大丈夫だ。むしろ余計な物はない方が、力は発揮される」

「……力?」

「ああ」

 睦月は正元鬼を抜くと、見えない壁に向き直った。

 だが、睦月が技を放つ前に見えない壁に亀裂が走る。

「?!」

 ヒビの元は無月。そう考えると――いや、そう考えずともいつもとどこか様子が違う。

 そもそも無月にこんな破壊の力はあったであろうか?

「……の力……た…………きがっ」

"や……やめっ"

「……を…………るこ……が……い」

"ああああぁぁぁっ……"

 ガラスの割れたような音がし、人一人通れるくらいの穴が空いた。

 風が吹き白影が揺れる。

「釉豼ちゃん!」

"で……んで……邪魔するのぉぉぉっ"

 一歩踏み込もうとした無月に白影の持った弓がふりかかる。

 しかしそれは少し、風――力を使い走り込んだ薫によって受け止められる。

「くっ……」

 その力はかなり強い。だが、薫も負けられなかった。

 切り込もうとした睦月は、二人がいて動くことが出来ない。

 それ以前に、空いた穴から吹き込む、雪を巻き込んだ風が冷たくて動けなかった。


だが それを心地よく感じる者がいた

それと同時に己からわき上がる 高揚感

懐かしいと感じる この気配



 雪影は弓を握りしめると、にやりと笑った。

 狙うはただ一点 白影の脳天 頭のど真ん中。

 ゆっくりと、矢を持った時のように雪影は右手で弓を引いた。

 矢のあるべき場所には、ぼんやりと青い光が現れる。

 いつもと変わらぬ動作を行い、弓から右手を離すと、青い光は軌跡を描き、白影に向かった。

"っあああぁ……"

 白影の脳天を雪影のはなった青い光の矢は突き刺さった。じわじわと、その形をとれなくなってきている。それと共に、握れなくなったのか弓は 床に落ち、その反動で薫は後ろに座り込んだ。

 見えない壁は、もう跡形もない。

「次は、魂を打ち抜くよ?」

 弓を構えたまま雪影はにっこりと微笑む。崩れた白影は、少しずつ雪影に吸い込まれていっている。
"い……だ…だ……消えた……"

「諦め悪いなぁ。じゃぁ、いいよね?」

 再び弓を引くと、先程より今度はハッキリした矢の形が現れた。

「……バイバイ」

 ここは悪魔の微笑みと言うべきだろうか。黒い雰囲気を纏った雪影はそんな笑みを浮かべ、矢を放った。

 今度も軌跡を描き、矢はもう一つの急所 心の臓のあるべき場所を貫いた。

"――――!!"

 声なき声を上げ、白影は四散した。

 正確に言うと、少年の魂が光玉から切り離されたのである。魂はそのまま、天に昇っていった。

「やはり……な」

 戦いに加わらなかった睦月が、後方でポツリと呟いていた。


 光玉は殆ど雪影に吸収され、薫の時より小さく見える。

 しかし、ふらふらすることはなく、一直線に飛んできた。

――――曲がる事なき真の心は我が主也 その御名 弐ノ月 如月

 右目の下に白丸が二つ重なったような痣が、浮かび上がった。

 雪影に光玉が戻ると、降り続けていた雪がやんだ。

 釉豼はただ白影に気を盗られただけで、怪我は一つもなかった。

 無月が力を使った謎だけが 残されたのである



白き幻影 その先に

君の望みが隠れている

だからきっといつの日か その正体に気づくだろう


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(2004/03/29訂正)

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