その2

 村はかなり小規模な場所だった。
 俺的にはそんなのどうでもよかったが。
 水菜は俺の前を軽く走っている。
 楽しそうにも見えるが、多分先ほどの様子だと落ち込んでるだろう。
 声を掛けようかと何度も思ったが、結局やってない。
 なんだかなぁ。
「ついたよ。此処が、私の家」
 ……でけぇ。コイツ、何人で住んでんだ?
 そこは、旧家のような場所だった。
 こう、でっかい屋敷と庭と、ってな。
「んで? どうすんだよ」
 ふい、と水菜を見ると、家の中に入っていた。
「ちょっと、そこで待ってて〜!」
 そう言い残すと、家の中へ駆けていった。
 待ってろって……ここでかよ。せめて、玄関に入れろ、玄関に。
 暇なので、俺はそこら辺を見ていることに決めた。
 門からだいたい10メートル強ってとこか……無駄に長いな。
 そんなこんなしているうちに、あいつが戻ってきた。
「いたいた。海にい見つけたから、入っていいよ!」
 あいつはいつの間にか、変身を解いている。
 猫耳もしっぽも元通り。こっちで人間の格好は、タブーなのか?
「ああ」
 俺は生返事をすると、靴を脱いで上がり込む。
 水菜の後についていくと、ある部屋に通された。
「海にい……連れてきたよぉ」
 水菜は怒られるのが怖いのか、半分ビクビクしているように見えた。
 俺が部屋を覗くと、そこにいたのはやはり、オレンジ色の猫耳と尻尾の青年。
 身長は……俺より高いか? となると、大体170前後ってとこだな。
 髪は水菜と違い、灰色で、肩までの長さ。しかも……鼻眼鏡だよなぁ、あれ。
 上は白の長袖にワイン色のベスト、ズボンは青っと。
 なんか……尻尾の分け目が、水菜よりもかなり根本に近い気がする。
 コイツが、水菜の言う"海にい"だな。
「はぁ。水菜ちゃん、あれほど注意したのに……また、ですか?」
「多分……ごめんなさいっ」
「起こってしまったことは、仕方ないです。さて……どうかしました?」
 俺がぼんやり考えている間に、向こうの話も終わったらしい。
「いや、なんでもねぇ」
 立ち話も何ですから、と言って、"海にい"と呼ばれる人物は、俺に席をすすめた。
 俺が席に座ると、自己紹介をしてくれた。
「僕は卯海(うかい)、干支の兎のうに、海のかいと書きます。次男です。今は、大体300歳ですね」
 次男って事は、上にもいるのか……って、ちょっと待て、300歳?!
 俺が驚いた顔をしていると、卯海はそれを察してか、説明してくれた。
「やっぱり、驚きますよね。魔界は人間界とは時間の流れが違います。それに……」
「それに……なんだ?」
「寿命の長さも違いますから。僕達の父様は1000歳を越えてるかと」
 この家の様子だと、父様ってのは、村長かなんかなのか? まぁ、それはいい。
 寿命の違いねぇ。なんだかなぁ。
 つーか、人間に換算してくれるとありがたい。ホント。
 まてよ、てことは水菜も……
「ああ、水菜ちゃんは100歳ですよ。ちなみに、三女です」
 卯海は俺の言いたかったことをくみ取って、教えてくれた。
 なんか、考え読まれてるようで、こえ〜……
「そうか、わりぃな。話そらしちまって」
「いいえ」
 卯海は苦笑いを浮かべると、話を続けた。
「それで、君の名前は……っと、わからないんですよね。それなら、住んでいた場所とかは覚えてませんか? わかる限りでなんでも良いのですが」
 そう言われてもなぁ。家のイメージあんまねぇしなぁ。一軒家だったか?
 隣近所なんかが家だらけで、住宅地ってとこまでは分かるけど……
「それも、あやふやだ。ハッキリとは、わかんねぇ」
 そうですか……と言って、卯海も黙り込んでしまった。
 う〜ん、こういう反応されるとなぁ。悪いコトしてるみてぇで、なんか嫌な気分だ。
 でも、仕方ないし。俺、多分被害者だし
 まぁとりあえず、俺も聞きてぇ事聞いとくか。
「なぁ、俺が此処にいるのって、そいつの所為なのか?」
 俺は水菜を指す。悪いとは思うが、一応聞いとかねぇとな。
 水菜はビクッと身体を振るわせた。
 覚悟してたとみて平気かな。あんま責めるのも酷ではあるな。
 卯海はため息を漏らして、肩を下げた。どこか諦めた風に俺は見えた。
「……おそらく。水菜ちゃんの話では、退治の途中で、どこかの家に入り込んでしまったとか。そこで、魔界に送り込む時に、君を巻き込んだのだと思います」
 やっぱ、巻き込まれたのか、それで、記憶喪失ねぇ。
 さて、次の疑問は……と行く前に今の質問からだな。
「退治って?」
「ああ、僕達猫又一族は、代々魔界と人間界の間に住んでいます。それは、人間界に行ってしまった魔界の生き物達を、魔界に返す仕事があるのです。で、暴れていたり、悪さをした者は退治……つまり消してしまうんですよ」
 卯海は、笑顔で言ってるが、ある意味では問答無用って事だよな。
 にこやかな笑顔を残しつつ、さらに続ける。
「人間界での、修行期間もありますしね。これは、人間になってどう生きるか? がポイントなんですけどね」
 ね。って……語尾にハートマークついていそうな勢いだな。
 それで、化けられるんだな。納得がいった。
 これ以上聞くと話が長くなりそうだな。となると、あとはただ一つ。
「で、俺はどうすれば良いんだ?」
 とりあえず、一番聞きたかったことを口にした。
「そうですねぇ」
 卯海は考え込んでいる。解決策ぐれぇねえのか?
「とりあえず、人間界に戻って貰うにも、記憶がないと意味がありません。だから……」
 なんか……少々嫌な予感。
「水菜ちゃんと行動して、どうにか自力で記憶を呼び覚ますってのはどうでしょうか」
 語尾がハートだよ、ハート。しっかしなぁ……
 いまいち不安が残る。なんてったって、あの水菜だぞ? 俺をここに落とした張本人だぞ?
 普通は悩むさ、普通は。いや、俺は普通だぞ?
 俺がなんだかんだ考えてると、卯海はこっちに笑顔を向けた。
 …………
 ひっ……従った方が良さそうだな。ああいう笑顔って、さからわねぇ方が良いし。
「わかったよ」
「え゛……海にい!」
 水菜はなんか言いたげに反応した。だが……
「水菜ちゃん、よろしく頼みますよ」
 これだよこれ。こんなのが側にいねぇで良かった。
「ぅ……は……ぃ」
「じゃぁ、どうせだからいろんなとこ行こうぜ!」
 もう半ばやけになって、俺はそう言った。
 魔界見学ってのも良いもんだろうしな。
 こうなりゃ考えをプラス方向に向けるしかない!
 厄介事を抱える事になった水菜は、渋々了承してくれた。
 自業自得だ。とーぜんだってぇーの。

back top next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送